ケチャップさなえドリル

フィクションの練習帳

オペ彦

 深夜二時、コアラとラッコのしりとり接続を見つけて歓喜する。無限に続けられるのだ。コアラ、ラッコ、コアラ、ラッコ、コアラ、ラッコ、コアラ、ラッコ……。終りのないしりとりに、よろこぶ私は日本人。
 しかし、これは拷問にも使えるという。二人の人間を密室に閉じこめて、片方の人間にコアラと言わせ、もう片方にはラッコと言わせ、それを永遠に続けさせると、二人ともすぐに黒目が定位置を離脱して、頭がおかしくなってしまうそうなのだ。
「コアラ役とラッコ役、どちらが先に発狂するんだろう?」
 ひとりの小学生が、夏休みの自由研究として、これを実行した。名前をオペ彦といった。オペ彦は両親にねだり、一組の人間を購入してもらったのである。
「コアラ役のほうが先に発狂しました。時刻は八月二日午前四時二十五分。実験開始より、四十時間が経過した時のことでした。しかし、相手を失ったラッコ役は、それでも惰性に引きずられ、ひとりでラッコとつぶやき続けていました。ラッコ、ラッコ、ラッコ、ラッコ、ラッコ…‥。これじゃあ、しりとりになっていない! 僕は不満である!」
 ああ、大富豪の元に生まれ落ちた肥満体の子どもよ。他者へのあわれみを知らず、自分以外のすべては実験動物なのだ。

上田啓太
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